MENU

こっちが払ってるのに税金まで?!知っておきたい源泉所得税の基礎知識

Chihaya Iitsuka

事業をはじめると「そんなの習ってないよ!」というような税金のルールが、当たり前のように幅を利かせていることに戸惑う方のお話をよく耳にします。

今日はそんな謎ルールとも言える、「源泉所得税」について紹介します。

知っておかないと後で、しっぺ返しを食らうかもしれません。。。

少しでも関係ありそうだなと思ったら、一応頭に入れておくことをおすすめする内容です。

こっちが支払い側なのに税金まで払わないといけない理屈

たとえば、個人事業をしている方が税理士に確定申告をお願いするとします。

この際、一定の条件にあてはまると、税理士に対してのみならず、税務署に対しても支払いをしなくてはなりません。

このしくみを源泉所得税といいます。

「こっちが支払い側なのに、なんで税金まで支払わないといけないんだ」という感じですよね。

それはまったくそのとおりだと思います。。。

しかし、こういうルールになっています。

これはどういうことかというと、本来、税理士が払うべき税金を代わりに払ってあげている、ということになります。

より身近なところでいえば、会社員やアルバイトをしていると、お給料から税金が天引きされますね。

この天引きされる税金にも源泉所得税が含まれています。

これは、本来、従業員が払うべき税金を会社がいったん天引きして、代わりに払ってあげているというものです。

この天引きするというのが、実は給料だけじゃなくて、その他の支払いの場合にも必要というのが、この源泉所得税というルールです。

しかも、この源泉所得税、支払いを忘れていると、料金を払っている側に罰則が来てしまいます。

本来は他人の税金なのに、払わないでいるとこっちにペナルティが来るという、何とも、イヤらしい制度になっています。

だから、自分は関係ないや、とも言っていられないのです。

実はトータルの支払い額は変わらない

これを図を使って詳しく見ていきます。

まずはお給料からいきましょう。

たとえば会社が従業員に給料100を払うとします。

この100を「額面」と表現したりしますが、本来、会社から従業員に払う金額がまずはありますね。

しかし実際には、この100全額を従業員に払うわけではなく、いくらか天引きした上で、残りを払います。

正確には、天引きするものの中には住民税や社会保険料などもあったりしますが、ここでは源泉所得税だけとします。

たとえば、その源泉所得税が10だとすると、従業員には90、税務署には10払うという形になります。

これと同じようなことを、一部の外注先に払うときにもやるというわけです。

たとえば、会社から発注先に何らかの仕事をお願いして、100の請求が来たとします。

普通であれば、この100を発注先に払えば終わりです。

しかし、一定の条件に当てはまる場合はそうは行きません。

請求金額のうち、一部だけ源泉所得税として天引きし、発注先にはその残りだけを払います。

仮に源泉所得税を10だとすると、発注先には90、税務署には10を払うという形になります。

ここでご理解いただきたいのは、払う金額が増えるわけではないということです。

発注先には払わないといけない、さらに税務署にも払わないといけない、となると、余計に払ってしまってるような気持ちになりますが、そうではありません。

あくまで、発注先から請求された金額のうち、一部を発注先には払わず代わりに税務署に払っているだけです。

先ほどの数値例でいえば、払うトータルの金額は90+10=100で変わりはありませんね。

経理の手間が増えてしまうというところは厄介ではあります。

しかし、損しているわけではないというところは1つ大きなポイントです。

自分は対象?源泉所得税を払わないといけないのはどんなときか

この源泉所得税ですが、だれでも、どんなときでも、この処理をしなきゃいけないというわけではありません。

①自分が対象になるか
②相手先が対象になるか
③支払い内容が対象になるか

という3つの条件があります。

この条件をすべて満たす場合にだけ、処理をすればいいことになっています。

いくつかパターンがありますが、その代表例が給料と報酬の支払いです。

ここでは、よく出てくる割に見逃されがちな、報酬の支払いについて、その条件を紹介したいと思います。

①自分が対象になるか

①自分が対象になるかどうか、つまり、支払い側の条件としては、

・法人 すべて
・個人 従業員に給料を払っている人のみ

が対象になります。

まず、株式会社、合同会社、一般社団法人など、法人はすべて対象になります。

一方、個人事業主は従業員に給料を払っている人に限られます。

逆にいうと、従業員に給料を払っていない個人の方は、この源泉所得税の支払いについて気にしなくていいということになります。

ここまでさんざん脅すように話してきてなんですが、すみません、一人で活動されている個人の方は関係はないんですね。

ちなみに、青色事業専従者に給料払っている人は対象になります。

家族に給料払っているだけだから構わないだろうと思われがちですが、給料払っていることには変わりはなく、源泉所得税の調整が必要になりますのでご注意ください。

また、個人事業主で活動していて、それまで関係なかった人でも、法人成りして、株式会社を設立したら、源泉所得税の対象になってきます。

同じ相手先への支払いでも、源泉所得税の処理が必要になるケースも出てくるかもしれませんので、注意です。

②相手先が対象になるか

つづいて相手先の条件です。

ここはシンプルで、個人に対する支払いについてのみが対象になります。

したがって、発注先が会社であれば、源泉徴収はしなくていいということになります。

※厳密には法人に対する支払いもごく一部なくはないのですが、特定業種だけのレアケースなので、一般の方は気にしなくていいでしょう。

③支払い内容が対象になるか

最後に、支払い内容についての条件です。

つまり、依頼する業務の内容によって、対象になるものがあるということですが、これが結構たくさんあります。

以下、表にまとめてみました。

区分内容備考計算方法
士業に対する報酬・弁護士、法律事務所
・司法書士、法務事務所
・税理士、会計事務所、公認会計士
・弁理士、特許事務所、知財事務所
・社会保険労務士
・中小企業診断士、経営コンサルタント、労務管理士等(経営指導料)
・建築士、建築代理士、土地家屋調査士、測量士、不動産鑑定士
・海事代理士、技術士
・火災損害鑑定人、自動車等損害鑑定人
行政書士は源泉徴収しなくてよい内容により異なる
(請求書に記載がない場合、要確認)
教授・指導料
(技芸、スポーツ、知識等)
技芸、スポーツその他これらに類するものの教授料、指導料
技芸、スポーツその他これらに類するものに関する知識の教授料
各種資格取得講座の講師謝金等
以下の教授・指導料
・語学、生け花、茶の湯、舞踊、囲碁、将棋等、編物、ペン習字、着付、料理、ダンス、カラオケ、民謡、短歌、俳句等
いわゆる「講師料」が当てはまる原則どおり
講演の報酬講演を依頼した場合の講師に払う謝金セミナー報酬は含まない原則どおり
出演・演出
(テレビ、ラジオ、映画、演劇その他芸能)
以下の出演、演出、企画料
・テレビ放送、ラジオ放送、映画、演劇、音楽、音曲、舞踊、講談、落語、浪曲、漫談、漫才、腹話術、歌唱、奇術、曲芸、ものまね

※指揮、監督、映画や演劇の製作・監修・選曲、振付け、舞台装置、照明、撮影、演奏、録音、編集、美粧、考証の料金を含む
以下を含む
・ネット動画の編集
・ネット動画用字幕の作成、編集
・ネット動画の配信内容の文献調査(裏取り)
・ネット動画内で行うイベント等の企画

→YouTube動画に関連する外注費は、だいたいこちらに当てはまる
原則どおり
原稿の報酬原稿料
書籍等の編さん料、監修料
演劇、演芸の台本の報酬
口述の報酬
映画のシノプス(筋書)料
文、詩、歌、標語等の懸賞の入賞金
以下を含む
・冊子やWebに掲載する文章
・コピーライティング(広告文章)
・レビュー記事の作成
原則どおり
校正の報酬書籍・雑誌等の校正の料金以下を含む
・Web公開用文章の校正
原則どおり
デザインの報酬グラフィックデザイン
クラフトデザイン(茶わん、灰皿、テーブルマットのようないわゆる雑貨のデザイン)
服飾デザイン(衣服、装身具等のデザイン)
工業デザイン(自動車、オートバイ、テレビジョン受像機、工作機械、カメラ、家具等のデザインおよび織物に関するデザイン)
パッケージデザイン(化粧品、薬品、食料品等の容器のデザイン)
広告デザイン(ネオンサイン、イルミネーション、広告塔等のデザイン)
インテリアデザイン(航空機、列車、船舶の客室等の内部装飾、その他の室内装飾)
ディスプレイ(ショーウィンドー、陳列棚、商品展示会場等の展示装飾)
ゴルフ場、庭園、遊園地等のデザイン
映画関係の原画料、線画料、タイトル料
標章の懸賞の入賞金
以下を含む
・イラストレーター、レタリングライターへの報酬
・広告、ポスター、包装紙等のデザイン
・ロゴ、印刷物、WEBデザイン
・広告用チラシの作成
原則どおり
写真の報酬雑誌、広告その他印刷物に掲載するための報酬・料金いわゆる、フリーランスのカメラマンへの報酬を指す。
Webのみ掲載用の報酬については明記が無いが、一律に源泉徴収を行う方が無難。
原則どおり
翻訳・通訳の報酬翻訳・通訳の料金原則どおり
作曲の報酬作曲、編曲の報酬原則どおり
レコード、テープ、ワイヤーの吹き込みの報酬レコード、テープ、ワイヤーの吹き込み料
映画フィルムのナレーションの吹き込みの報酬
原則どおり
挿絵の報酬書籍、新聞、雑誌等の挿絵の報酬原則どおり
脚本の報酬映画、演劇、演芸等の脚本料原則どおり
脚色の報酬潤色料(脚本の修正、補正料)、プロット料(あらすじ、構想料)原則どおり
書籍の装丁の報酬書籍の装丁料原則どおり
速記の報酬速記料原則どおり
版下の報酬版下の報酬原則どおり
放送謝金テレビ放送、ラジオ放送等の謝金等原則どおり
芸能人に関する報酬以下の芸能人の役務の提供を内容とする事業を行う者の、その役務提供に関する報酬
・映画や演劇の俳優、映画監督や舞台監督(プロデューサー)、演出家、放送演技家、放送演技者、音楽指揮者、楽士、舞踊家、講談師、落語家、浪曲師、漫談家、漫才家、腹話術師、歌手、奇術師、曲芸師、ものまね師
原則どおり
投資助言業務にかかる報酬金商法28条6項に規定する投資助言業務にかかる報酬原則どおり
著作権の使用料書籍の印税
映画、演劇、演芸の原作料、上演料等
著作物の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用または出版権の設定の対価
原則どおり
著作隣接権の使用料レコードの吹き込みによる印税等原則どおり
工業所有権等の使用料工業所有権、技術に関する権利、特別の技術による生産方式またはこれらに準ずるものの使用料原則どおり

いろいろありますが、クリエイティブなお仕事、いわゆるクリエイターさんに対する支払いが多いですね。

ホームページやYouTube、SNSなど、ウェブ絡みの外注費はひっかかりやすいのでめちゃくちゃ注意です。

あとは弁護士、税理士、司法書士など、士業報酬が実務上出てきやすいですね。

ただし、あくまでも、

①自分が対象になるか
②相手先が対象になるか
③支払い内容が対象になるか

の3つすべてがあてはまるときだけが対象です。

たとえば、イラストレーターさんにデザイン料を払うとしても、相手が株式会社だったら、源泉所得税は関係ありません。

また、税理士に確定申告報酬を払うとしても、相手が税理士法人だったら、やはり関係ありません。

ついつい③にばかり目が行きますが、②と合わせて判断をします。

ABOUT ME
飯塚 千隼(いいつか ちはや)
飯塚 千隼(いいつか ちはや)
税理士
記事URLをコピーしました